茫洋物見遊山記第98回 &鎌倉ちょっと不思議な物語第269回
全国の闘う学友諸君、そしてルンペン・プロレタリアートのみなさん、メリーⅩマス! いよいよ押し詰まって参りましたね。
今年は長年お世話になって来たクライアントからの発注が突然止まり、ヒジョウキンの口がひとつ減り、義母をはじめとして多くの人々が亡くなり、私が蛇蠍の如く忌み嫌っている政党とその一派どもが政権を奪取するなど、内外ともに気色の悪いことが積み重なりました。それらの影響はこれからジワジワと出てくると思いますが、それもこれも身から出た錆といふことなれば、この衰え行く痩身ぜんたいで受け止めて行かねばらなんと覚悟しておる今日この頃です。
さて家に閉じこもってばかりいては心身共にろくなことはないので、わたくしは中原中也が死んだ病院で検診を受けた帰りに、久しぶりに駅から朝の小町通りをぶらぶら鏑木清方記念美術館まで歩きました。普段は無数の観光客であふれかえっている小町通りですが、ここはいつ行ってもほとんど人がなく、かつてまさにこの地この場所に日本画家鏑木清方が居住した頃とそれほど変わらない落ち着いた雰囲気が保たれていることに驚かされます。
会場に入って見ると右側の壁面に上下に並べられている清方の羽子板の原画と永井周山手造りの押絵羽子板の展示がたとえようもなくあでやかです。周山は清方のオリジナルを忠実に踏襲しながらも、場合によっては人物を減らしたり向きを変えたりしながら在りし日の「明治風俗12カ月」を見事に再現していました。
清方という人は単彩のスケッチも精妙そのもので江戸の昔を再現していますが、ひとたび色筆を取ればまことに華麗な色彩世界に遊ぶ、さながら江戸のアンリ・ルソーのような自由さ自在さを併せ待っていて、それはたとえば今回展示されている「初雁の御歌」の青や緑や朱色の饗宴に現れています。
展示作品こそ少ないものの、ここにはつねに明治、大正、昭和の初期を通じて流れていた江戸の情緒がほのかに息づいているのです。東京からの資本や商材で賑わう虚栄の市の愚かなさんざめきに飽きたら、横丁を左に曲がって観光客が一人もいないこの小さな美術館へどうぞ。
なお同館の「正月の風情展」は来年1月20日まで。ただし年始年末12月29~1月3日までは休館。詳しくはホームページ参照のこと。
清方は日本のアンリ・ルソーいつも江戸の春に遊んでるよ 蝶人
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