闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.366
池宮彰一郎の原作を読んだことがないのでなんとも言えないが、今までの赤穂浪士余話とはずいぶん違った内容で、首をかしげる箇所も多かった。
たとえばあの謹厳な大石内蔵助があんな軽佻浮薄な京女にうかれてにわかに子をなしたりするものだろうか。それ以外にも鎌倉の料理屋のおかみと風呂場で濡れ場を演じたり、大事な討ち入りを控えているというのに行状に隙がありすぎるのである。
よし脚本がそうだとすれば、そんな硬弱併せ持つ複雑なキャラを高倉健のような素人大根役者が演じられるはずがない。吉良上野介の頸を血まみれになってちょんぎるラストまで違和感が付きまとって離れなかった。致命的なミスキャストだと思う。
市川昆の演出もしゃらくさいもので、例えば家老の妻のたもとが締めた戸に残っているのをぐいとひっこ抜く無くもがなのシーンにそれが現れている。
面白かったのは吉良邸が要塞のように強固に固められていて、義士が閉じ籠められたり行き場に困ったり、首領の内蔵助自身が刀を振るって懸命に血路を切り開いていたこと。もっとも興味深かったのはこの映画が、吉良を殺されるいわれのない人物として描いていることと、内蔵助が主君の仇討を口実に、幕府に対してひと泡吹かせようとしてさながら大塩平八郎のように決起していることであった。
されど内蔵助が大金を使って上野介の悪人キャペーンを行ったり、ドスを振りかざす内蔵助に向かって浅野内匠頭刃傷の秘密を明かそうとする上野介をぶっ殺してしまうシーンなど、まことに奇妙奇天烈後味の悪い忠臣蔵であった。
一枚の落ち葉となりて犬踊る 蝶人
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