照る日曇る日第556回
パリで妊娠、出産した女性のひたむきな育児奮闘記
さきに「フランス映画どこへ行く」で私(たち)が全然しらなかったおふらんす国の映像産業の実態についてビシバシ蒙を啓いてくれた著者が一転してレポートするのは、なんとご本人の子育て体験である。
この本には、パリでフリージャナリストとして活躍する著者がフランス人男性のジル選手と巡り合い、妊娠、出産、そして育児に奮闘した10年間の記録がありのままに記されている。国内での出産だって一騒動なのに、異国、ましてやフランスでのそれとなればきっといろいろあるんだろうな、と思っていたら、その色々が詳しく紹介されていた。
親というやつはとかく子供に過大な期待をしたり自分勝手なリモコンをしようとするものだが、いまフランスでは精神分析医フランソワーズ・ドルトというカリスマおばさんが颯爽と登場して「子供を一人の人格ある人間そして認める」という哲学を実践して母親たちの絶対的な信頼を勝ち得ているという。
「子供は大人以前の未完成な存在である」として厳しく区別する大人社会のこの国にあって、ドルト選手の育児革命は大きな波紋を投げているそうだが、こういう育て方なら幼いプルーストも泣かずに済んだかもしれない。
それよりいちばん驚いたのは、ある日突然著者が夫のジル君と別れてシングルマザーになってしまうくだりで、育児に熱心だった良人に去られた著者は孤立無援の育児戦争に突入するわけだが、そのあたりは直接本書にあたってみてほしい。
本邦の「1.39」に対して「2.01」とフランスが先進国でもっとも高い合計特殊出生率を誇っていることはつとに知られているが、それを手厚くバックアップしているのは国を挙げての子育て支援政策で、その実態についても巻末で具体的に触れられている。選挙で一敗地に塗れたわが国の民主党ももっと早く研究してマニュフェストに反映しておけばよかったのにね。
鎌倉の針谷産婦人科で産まれたるわが長男はオギャアと泣かず 蝶人
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