♪音楽千夜一夜 第275回
夏に聴く音楽といえばやはりフレデリック・ディーリアスだろう。あらゆる英国の音楽家のうちで私がもっとも愛するこの作曲家の曲は、しかしあまり英国的とはいえず、彼が長く住んだフランスや、どこか北欧やアメリカやドイツからの遠い呼び声も聞こえてくる。要するに「雲白く遊子悲しむ」近代的なコスモポリタンの放浪歌なのである。
ディーリアスはビーチャムやバルビローリの演奏で有名だが、このデッカの選集はチャールズ・マッケラスがウエールズの国立オペラ管を率いて演奏したものが主体になっている。ビーチャムやバルビローリのような格別の色濃い思い入れをあえてせず、あえて肩の力を抜いた淡白な表現だが、それがかえってディーリアス特有の哀愁と叙情、そして人生の儚さを浮き彫りにしているように感じられる。一種の名人芸といってよいだろう。
私にこの憂愁の音楽を教えてくれた三浦淳史氏が逝ってすでに15年。かの吉田翁よりも宇野大人よりも優れた批評文を北の国から届けてくれた偉大な詩人が懐かしい2012年の盛夏である。
セールスマンは「ライムホワイトパールです」と力むけどつまりは白いセダンであった 蝶人
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