♪音楽千夜一夜 第276回
カラヤンが1960年代にドイッチエグラモフォンに録音したすべてのLPをそのまま82枚のCDセットに再構成したもので、1枚当たり212円の廉価盤である。
アルビノーニ、バッハからモーツアルト、スッペ、ヴィヴァルディまで、カラヤンはそれこそ隅田川でダボハゼを釣りあげるが如く交響曲や管弦楽曲、協奏曲を張りきって演奏しまくっているが、いずれも演奏の水準は高く、それがどんな作曲家のどんな小曲であっても(フルトヴェングラーと同様)全力を尽くしているので好感が持てる(なんのために全力を尽くしたのか、その理由は天と地ほども異なるとはいえ)。
オーケストラがベルリンフィルに完全に切り替わっているために、演奏と録音の精度がさらに向上しているが、音楽の内容自体については、すでにEMIに入れた管弦楽とオペラの全録音を聴き終えた耳にさほどの驚きはなく、カラヤン一流のレガート奏法が気にならないといえば嘘になる。
己が醸し出す官能の幻影に自ら酔いしれるようなこの耽美的な奏法は70年代以降になるともっと露骨になるので、この時期の初々しいベートーヴェン、チャイコフスキー、ブラームス、R.シュトラウスの表情を高く評価する人も多いだろう。
しかしここに聴かれる数多くの名演奏の中で、そのベストワンを挙げよと言われたらどうしても「オペラ間奏曲集」ということになってしまうのは、カラヤンの本領がやはりオペラの世界にあるからだろう。たとえ彼が天人俱に許すべからざるナチ党員であったとしても、この魔術的なオペラ演奏の価値を否定することは誰にも出来ないだろう。
お疲れ様遂に終わりぬ91年の生涯5年の介護 蝶人
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