債鬼たち
ある丹波の老人の話(14)
父を送って舞鶴から帰ってきた夜、入り口の戸を荒々しく叩いて起こす人がおりました。
町の信用組合の幹部が提灯を下げて立っていました。
父が逃げたということを早くも聞きつけたとみえて「信用組合からいっぱい借りておる借金をいったい君はどうするんじゃい!」とかみつくような強談判です。
職務に忠実な幹部の言い分にはまったく文句は言えない立場ですが、ズケズケといじめられるのは骨身にこたえました。
それだけではありません。翌日から毎日毎日我が家の門に迫る債鬼は、それこそひきもきらずです。
なにしろ父は、借りられるだけの人から借りだれるだけの金を借りまくっていたのです。その金額は三、四千円くらいでしたが五円、十円の小口もあって後に私が次々に払って戻ってきた借用証書が大きな支那カバンいっぱい分もあり今も保存しているくらいやから債権者の数は大変なもんでした。
なかには札付きの高利貸もいて、それが入れ替わり立ち代りやってきて、私を締木にかけるんです。
泣くにも泣けない私はただありのままに、「父の借金だからといって踏み倒す考えは毛頭ありません。何とかしてお返しする覚悟ではありますが、今どうするわけにもまいりません。どうかお返しできるときまでご猶予をお願い致します」
と、判で押したような言い訳を何度も何度も畳に額をこすりつけて繰り返すよりほかに手も足も出ませんでした。
(第三話 貧乏物語その2)
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