Saturday, March 17, 2007

レイモンド・カーヴァー著「水と水が出会うところ」を読む

降っても照っても 第3回


僕は小川と、それが奏でる音楽が好きだ。
小川になる前の、湿原や草地を縫って流れる
細い水流が好きだ。

と、開始される表題作の「水と水が出会うところ」という詩は、河が海と合流する広い河口の素晴らしさについて歌われている。

永代橋の近くの会社に勤めていた私は、会社の仕事や人間関係に疲れて屈託が生まれると、よく隅田川のほとりに佇んで、水と水が出会うところを眺めたものだ。

大川の流れは意外に奇麗だった。

汽水の上澄みには人間共の苦労を知らないボラやフグやハゼなどの魚たちが、楽しそうに、踊るようにして泳いでいる姿を、私はあかず眺めた。

そして洲崎を超えて遠く佃、月島方面を見やると、東京湾の上空にほの白い雲が浮かんでいるのだった。

平明でシンプルなスタイルの中にいつも確かな声、人間の肉声が聞こえてくる。それがカーヴァーの詩だと思う。ホイットマンとヘングウエイを足して2で割った感じだ。

例えば「怖い」という詩では、

家の前にパトカーが停まるのを目にするのが怖い。
夜の眠りに落ちるのが怖い。
眠れないのが怖い。
過去が起き上がってくるのが怖い。
現在が飛び去っていくのが怖い…

と、続き、

愛せなくなることが、十分に愛せなくなることが怖い。
私の愛するものが、私の愛する人たちにとってこのさき命取りになることが怖い。
死が怖い。
長く生き過ぎることが怖い。
死が怖い。
これはもう言ったね。
 
で、終る。

何気なく書かれているようだが、ものすごい技巧を尽くした労作だ。(なお、言い忘れたがこれらはすべて村上春樹氏の翻訳である)

この「○○が怖い」というスタイルの発見もなかなかだが、その設定に従って全部で24の怖いを並べ、最後に24番目の答えをリピートして終る。

凄いとしか言いようがない。

しかし余りにも超絶技巧なので、わずかに感銘が薄れるのが唯一の欠点であるとは言えようか。

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