Saturday, November 10, 2012

ルイ・マル監督の「好奇心」を見て




闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.343


原題は「Le Souffle au Coeur」だから邦題の「好奇心」とは無関係。「心臓ドキドキ」とか「心臓パクパク」の方がベターだろう。ちなみにこのSouffleという単語を使ったゴダールの「À bout de souffle」も、邦題の恣意的な「勝手にしやがれ」を「息も絶え絶え」に改めてほしいものだ。

さてこの作品は、植民地ベトナムの独立戦争で敗北しつつある1950年代のパリの中産階級の人々の動揺をバックに、思春期を迎えたパリの少年の心身の混乱と成長をあざやかに描破したルイ・マルの傑作である。

2人の兄貴の協力で15歳にして「筆おろし」に成功した主人公は、それに自信をもってどんどん色気づいていくが、実の母親へのあこがれが頂点に達しとうとう「寝て」しまう。いわゆる近親相姦がかくも美しく感動的に描かれた映画はかつてなかったしこれからもないだろう。

まだ若く魅力的な母親は不倫をしており、相手と駆け落ちしようと決意したり、やっぱり諦めて戻って来て実の息子と性交したりするわけであるが、最終的には夫と別れもせず睦みあい、ふつうに家族を続けることになる。

そんないっけん平静な人間関係の奥底にわだかまる性のマグマの蠢きをじつに静謐なトーンで映像化してゆくリカルド・アロノヴィッチのキャメラが素晴らしい。私は昔この長身のインテリとバハマで知りあってちょっと映画の話をしたことがある。彼はマッチ箱くらいのカメラをもてあそびながら、「パリに来たら寄りなさい」といって細長い名刺を呉れたが、どこかへいっちゃった。

ヒッチコックのごとく一点景となりてこの世を生きたし 蝶人

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