♪音楽千夜一夜 第286回 短くも儚く散った名コンビによる記念碑的な演奏!
シャルル・ミュンシュを音楽監督に迎えたアンドレ・マルロー肝いりのパリ管弦楽団の1967年11月14日のお披露目コンサートの実況録音を聴きました。所はシャンゼリゼ劇場、曲目はベルリオーズの「幻想交響曲」、ストラヴィンスキーの「レクイエム・カンティクルス」、そしてドビュッシーの交響詩「海」という素敵なプログラムで、普通なら「幻想」を最後にもってくるのでしょうが、「海」をトリに据えるというのが当夜のミュンシュの秘めた料簡であったことは、この2枚組の録音を聴くと実によくわかります。
1週間にも及ぶリハーサルでミュンシュによって徹底的に鍛えられたパリ管の「幻想」は、それまで同国を代表していたパリ音楽院管の、ろくに練習もせず、各人各様の個人技を展開していた放恣なアンサンブルに比べると雲泥の差で、欧米の超一流のオケをしのぐその冷徹なまでのアンサンブルには改めて驚かされます。
しかし曲の解釈と演奏自体は彼がかつてボストン交響楽団や63年にフランス国立管弦楽団とやった演奏と大きくは違わない。終楽章の「サバトの夜の夢」もいちおう青白く燃えてはいるのだが、なぜだか彼のライヴにしては狂乱の度が抑えられ、バーンスタインやモントゥーのむきだしの熱狂が恋しくなります。さすがのミュンシュとパリ管もデビュー演奏会ということで少し硬くなっていたようです。
ところが後半のストラヴィンスキーとドビュッシーは凄かった。それまで押さえていた熱と力と意志を満を持したように全開して、指揮者もオケも歌いに歌います。ドビュッシーの「海」もこの偉大な指揮者が何度も演奏し録音してきた名曲ですが、第3曲のトランペットの強奏を耳にしながらドビュッシーがインスピレーションを得たという葛飾北斎の「富嶽三十六景・神奈川沖裏」の映像が忽然と脳裏に出現したのには我ながら驚きました。
とかくドビュシーというと印象派の点描に似た曖昧模糊とした演奏が喜ばれるようですが、当夜の「海」は一切の文学的な霧のヴェールを取り去った純音楽的な名演で、「大爆発、驚天動地、未曾有、空前絶後、千載一遇」などという惹句はもちろん大仰に過ぎますが、短くも儚く散ったこの名コンビによる記念碑的な演奏であることは間違いありません。
ミラノ・コレに昔の名前で出ています「ジル・サンダー」byジル・サンダー
蝶人
No comments:
Post a Comment