闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.315
ここでいきなり画面に乱入してくる寅次郎は怒れる侠客であり後年の円熟して謙虚で穏やかな寅さんの姿ではない。妹の見合い結婚をぶち壊す乱暴狼藉は、ほとんど狂気の沙汰である。
私はここで寅次郎の姿を借りて原作者の血肉の奥底に潜む幸福で平和的な市民生活、学歴があり高収入で豊かな生活を享受している人間に対する嫉妬と羨望と憎悪ということを思う。
そしてこの己の頭上に神々しくそびえる富裕階級に対する理由なき軽蔑と拒絶こそが、今も昔も原初的な革命への衝動を準備するのである。
けれども20年振りに懐かしい故郷に戻った道楽息子は次第に温和な小市民と化し、みずからの存在理由をどんどん喪失してゆくのだが、その都度ぎりぎりの土壇場で負け戦の現場を逃走し、そのことによって革命児としてのみずからを鍛え直すのであった。
風天の虎と発する革命戯 蝶人
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