Sunday, September 09, 2012

内田樹&高橋源一郎著「どんどん沈む日本をそれでも愛せますか?」を読んで




照る日曇る日第537

マーケティングはあらゆる商品やサービスが導入以来、時間の経過と共に成長、成熟、衰退のプロセスを辿ることを教えている。文明文化産業もまた然り。あらゆる偉大な帝国も、勃興し、興隆し、そして沈んだ。かつては4大文明諸国が、近くは大英帝国が、そしていまやこの国が、経済的にも政治的にもどんどん地盤沈下して衰退期を迎えているのである。

下手な悪あがきはやめてこの緩慢な下降、そして死に至る閉塞期を、出来るだけスマートに、出来るだけ明るく楽しく受け入れようという著者たちの提言に、私は前から賛成している筋金入りの非国民的敗北主義者である。

もっともっとうまいもん食いたいよお、きれいな女(男)を毎晩抱きたいよお!と、らあらあ喚きながら眼の色と血相変えて地球狭しと走り回るBRICS&新興経済国の若くて元気な諸君よ。未来は君たちのものだ。

この国はすでに一回終わった国であり、おらっちは、もう終わった人だ。ゲームからおりて、ねんねぐーさせてもらいよ。ところがそういう冷静な歴史認識をいっさい無視して相変わらず右肩上がりの成長を夢見る往生際の悪いドンキホーテが権力の中枢に蠢いているからはなしはややこしくなる。

ところでそろそろ総選挙だそうだが、著者たちが期待していた細野、橋下、小泉のがっつり激突にならなかったのは残念至極であった。前回の民主党のマニュフェストも酷かったが、今回の維新連中の「船中八策」なんてあきれる。んなもんまるで中学生の今週の努力目標じゃないか。自民党はなんとなんと天皇元首制!だって。21世紀も早々と暮れようとしているのに、このシーラカンスたちはいったいなにを考えているんだろう。

そこへいくと、成長論者が思考停止に陥り、「怨念に燃える破壊家、日本版ジュリアン・ソレル」の橋下市長が学級委員的もぐらたたきに狂奔している間に、内田&高橋コンビは未来教育の理想を和歌山のクラスも学年もカリキュラムもなく、先生も生徒もいない「きのくに子どもの村学園」というフリースクールに求め、理想的な死に里を山口県熊毛郡上関町の「祝島」のおばあさんの生き方に求めているから偉いもんだ。私たちも彼らに見習って若い世代へのさおれなりの贈与を考える必要がある。

しかしこの頭脳明敏にして喜ばしき性善説に立つ二人が、冗談にもせよ「天皇親政」を口走り、「最近の我が国の原発ゼロへの政策転換はアメリカの陰謀」説を垂れ流すとは、世も末というほかはない。

蛇足ながらいくら雑誌の対談を書籍にまとめたものだとはいえ、この本、誤植が多すぎる。もっと真面目に校正せよ。


この期に及んで右肩上がりの成長を夢見る左前左巻きのオッサンたちよ 蝶人

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