Tuesday, September 25, 2012

フランソワ・トリュフォー監督の「大人は判ってくれない」を見て




闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.316

原題は「LES QUATRE CENTS COUPSで、これはギヨーム・アポリネールの「一万一千本の鞭」(Les Onze Mille Verges)をトリュフォーが「引用」したものだと思われるが、トリュフォーが、少年時代の自分が400回の殴打」を受けたと言いたがっているのに、それを「大人は判ってくれない」などとしたり顔で勝手に代弁するのは間違いである。よく映画を見れば「判る」が、彼はそんなことを言いたかったのではない。

ゴダールの「À bout de souffle」を「勝手にしやがれ」などと強引に改変したり、坂本九が歌う「上を向いて歩こう」を「SUKIYAKI」などに変えてしまう人間が、私は大嫌いである。

それはともかく、トリュフォーも酷い親に育てられたものだ。長じてこういう自伝的映画を撮ったわけだが、不思議なことにそこにひとかけらの憎しみも混ざっていないことに驚くとともに涙する。トリュフォーの美脚フェチは有名だが、それは母親へ複雑意識と結びついていたんだね。

有名なラストの長回しは何回見ても感動的だ。海に向かって走っていた主人公をロングで捕えていたキャメラが回りこんで無表情な少年の顔を突然クローズアップして静止するのだが、この瞬間に観客は主人公に向き合わされ、それが映画ではなく自分たちの問題でもあることに気付かされる。映画によって巻き込まれたと感じた瞬間に映画が終わってしまう。

その後トリュフォーはたくさんの映画を撮ったが、これが一番の傑作かもしれないな。


鎌倉では毎日毎日人が死ぬ天国も地獄も満員だろう 蝶人

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