Wednesday, September 05, 2012

「ギュンター・ヴァント・グレート・レコーディングス」を聴いて



♪音楽千夜一夜 278

北ドイツ放響とのベートーヴェン、ブラームスの交響曲全曲、モーツアルト、シューマン、ストラビンスキーに加え、ケルン放響とのブルックナー、シューベルトの全交響曲などを加えた全28枚組5180円也のCDを聴けば、この人の大器晩成の芸術の最終的な仕上がりの見事さを堪能できるが、ボーナスに加えられた1枚のDⅤDが不朽の価値を持っている。

そこにはこの偉大な指揮者の死の前年2001年11月30日に行われた生涯最後のインタビューが収録されているからである。それによればヴァントが初めてシューベルトのハ長調交響曲を手掛けたのはなんと彼が60歳、そしてブルックナーの第5番を演奏したのは62歳になってから。しかもブルックナーの本当の傑作はその5番と9番だけであり、8番ですら周囲の雑音に影響された箇所があると断言するのである。

芸道の恐ろしさも知らず、なんでもかんでもコンサートにかけて録音しまくる当今のアホ二歳どもに聞かせたい有難い話ではないか。

ととのつまり指揮者の仕事とは、音楽を始めることと終わらせること、そしてその間をつつがなく経過させることである。そして良い指揮者は、演奏の前に深く楽譜を読みこみながら、まず彼自身の脳内で良い音楽を鳴らし、次いでその通りにオーケストラに演奏させなければならない。大半の指揮者はこの最後の2つのプロセスで大なり小なり破綻するが、ヴァントはつねにこの困難な回路をあざやかに踏破することができたのである。


地の果てに斃れし君は世の光地の塩の如く今も耀く 蝶人



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