Saturday, September 08, 2012

加賀乙彦著「雲の都第5部 鎮魂の海」を読んで




照る日曇る日第536


 前作と同様どこまでが事実で、どこまでがフィクションか分からず、その中途半端さがこの物語への沈入と熱中を妨げてはいるものの、60歳を過ぎた主人公が震災の翌日に家族と共に芦屋に駆けつけ、親戚の遭難と災害を救援するのみならず、おのれの精神科医師としての技量を罹災者の心身のケアに役立てようと単身過酷なボランティアとして勤労奉仕を敢行するくだりは感動的で、小説の出来栄えはともかくその犠牲的精神には深い感銘と共感を覚える。
 
その阪神淡路大震災やオウムのサリン事件、NYの9.11テロなどが生起する中で、登場人物はどんどん歳を取り、その多くが次々に死んでゆく。誠に人世は儚く、諸行は無常の世の中といわざるをえない。

外国では胃ろうなぞせぬと聞く死ぬときは死ぬがよかろう 蝶人

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