Friday, September 21, 2012

「2012年夏のルツエルン音楽祭」を視聴して



♪音楽千夜一夜 281

 指揮者クラウディオ・アバドの人格を慕って多くの楽人が参加して妙音を奏でるこのフェスティバルでは、ベートーヴェンの劇音楽「エグモント」とモザールの遺曲「レクイエム」が演奏された。

 前者ではセルの名演には及ばないにしても、朗詠のブルーノ・ガンツのお陰でまずまずの好演がもたらされたが、バイヤー版(第11曲の「聖なるかな」のみレヴィン版)で演奏された後者ではいささかの問題があった。

 第5曲までは無難な経過を示していたアバドだったが、第6曲のへ長調レコルダーレの冒頭でチエロの入りに明確なテンポの指示を怠り、あろうことか奏者の恣意にまかせてしまった。

 激しく動揺し、顔を見合わせながら2挺のチエロがおずおず奏ではじめたこの中途半端なアンダンテ4分の3拍子が、この曲および第7曲のラクリモーサ以降の演奏に与えた悪影響はまさに致命的で、スエーデン放送合唱団の熱演にもかかわらず普段のマエストロらしからぬ凡庸な出来に終わってしまったのは誠に残念な仕儀であった。

好漢アバドに望みたいのはもういちど師匠カール・ベームによる同曲の「正しい」テンポを改めて確認し、次回の演奏に備えてもらいたいという一事である。

NHK-BSに因るこの日の録画には、やはり本年4月にアーノンクールがロイヤル・コンセルトヘボウ管を指揮したベートーヴェンの「荘厳ミサ曲」ニ長調のライブも添えられていたが、冒頭のキリエや終曲のアニエス・デイのテンポがまったく異常な遅さで、それがこの鬼面人を驚かせることだけを生きがいにしている奇怪な音楽家のいびつな姿を物語っていた。アーノンクールには、もういちどクレンペラーの「ミサソレ」の録音に謙虚に耳を傾けることを望みたい。


音楽かはた雑音かこの凄まじきクマゼミの声 蝶人

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