鎌倉ちょっと不思議な物語119回 十二所神社物語その4
神社のきざはしを昇って向拝正面を遠望すると、そこには1匹の兎が彫られているのだが、この兎について「十二所地誌新稿」は中村元氏の「東西文化の交流」に出てくる次のような説話を引用して解説している。
インド説話に出てくるお釈迦様の前身の菩薩は、実は兎であった。菩薩は兎の家に生まれて森の中に住んでいたそうだ。
兎には猿と山犬とかわうその3匹の友達がいて、この4匹はいつも仲良く暮らしていた。めいめい自分の猟場で食物をとって夕方にはみな1つところに集まるのが常であった。
賢い兎は、3匹の友達に、「われわれは施し物をし、戒律を守り、身をつつしんで正しく作法を行なわなければならない」といつも説くのであった。
ある日1人のバラモンが来て「食物をください」と言うた。しかし兎は施す食物を持っていなかったので、「私の肉を火で焼いてそれをあなたにあげるからゆっくり森にいてください」と言うた。
さうして燃え盛る薪の山の中に飛び込み自分の体を犠牲にしようとしたのだが、不思議なことに兎の体は焼けなかった。というのは、そこに来ていたバラモンは、実は帝釈天というインドの神で、兎を試すためにそのような姿にやつしていたのであった。
帝釈天は、「賢い兎よ、お前の天晴れな行いは広い世界中に知らせてやらねばらぬ」と言うて1つの山を押しつぶして、その山から出た汁で月の面に兎の姿を描いた。そうして兎を藪の中のやわらかい草の上に寝かせてやって、自分は天の世界の宮殿に帰っていった。
月の中に兎がいるというのは、ここから出た話であるが、この説話は日本に入ってさまざまな物語を生んだ。
「十二所地誌新稿」の著者は、「神話に兎が慈悲深いものとして出てくるのも、これに起源を有するのではあるまいか。そうとすれば十二所権現の建設者は偉大なる人である」と結んでいるが、けだし至言である。
わがブログに死ねと書き込む人がいてかたじけないがいまだその時にあらず 茫洋
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