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Saturday, December 22, 2012

岡松和夫著「少年飛行兵の絵」を読んで



照る日曇る日第554回

「世上乱逆追討耳に満つと雖も、之を注せず、紅旗征戎吾が事にあらず」という白居易の言葉をかみしめながらこういう本を読んでいると、いつの世も人の暮らしと心は変わらないよと亡き著者がそっと呟くのを耳にしたようで、乱れたこころが少しは慰められる。

これは著者が横浜で高校の教師をしていた自分の思い出をもとに書かれた私小説風の小説だが、登場する人物や風景がすべて懐かしく、嫌なところがないので気持ちよく読めるのだと、いま思い当った。世界が不快で不条理に満ちているからと言ってそれをそのまま反映した小説を書く必要など毫もないのだ。

青々とした草原に置かれている座り心地の良い杉の丸太や、その近所に建っている萱葺きの古家、そしてその屋根裏に棲む青大将の「ジョウ」を、いつかどこかで私も見たような気がする。

今から30年前の昔、私たち家族が陋屋の2階に枕を並べて眠っていたら、夜中にザワザワという不思議な音がする。目が覚めてあたりを見回したら中くらいの長さの青大将が私の枕のちかくで1匹とぐろを巻いていた。

驚いて妻子を起こして、さてどうしたものかと途方に暮れていると、いつの間にかやって来た次男がそっと座布団を蛇の上に掛け、横から両手を入れると、たちまち我が家のジョウが彼の捕囚となってしまった。陋屋の屋根裏にはいつも鼠がコロコロと走り回っていたので、ジョウはこれを退治してくれていたに違いない。

次男は幼い時からどんな動物や昆虫とも仲良く遊んでいた。毒のあるヤマカガシなども平気で首に巻いて遊んでいたので、無毒の青大将などおちゃのこサイサイだったのであろう。やがて妻と私の切なる願いを容れた彼は、ジョウを我が家の前に流れる小川に投じるべく、パジャマのままでのっそりと立ち上がったのだった。

話が大きく横にそれたが、この小説では最後の最後に思いがけない感動が待っている。が、別にそれがなくとも心地よい作品である。もっとも優れた芸術は、人の心を幸福にしてくれるのである。

 健くんが川へ投げたアオダイショウよ流れ流れていずこへ行きしか 蝶人

Monday, May 12, 2008

兎とバラモン

鎌倉ちょっと不思議な物語119回 十二所神社物語その4


神社のきざはしを昇って向拝正面を遠望すると、そこには1匹の兎が彫られているのだが、この兎について「十二所地誌新稿」は中村元氏の「東西文化の交流」に出てくる次のような説話を引用して解説している。

インド説話に出てくるお釈迦様の前身の菩薩は、実は兎であった。菩薩は兎の家に生まれて森の中に住んでいたそうだ。

兎には猿と山犬とかわうその3匹の友達がいて、この4匹はいつも仲良く暮らしていた。めいめい自分の猟場で食物をとって夕方にはみな1つところに集まるのが常であった。
賢い兎は、3匹の友達に、「われわれは施し物をし、戒律を守り、身をつつしんで正しく作法を行なわなければならない」といつも説くのであった。

ある日1人のバラモンが来て「食物をください」と言うた。しかし兎は施す食物を持っていなかったので、「私の肉を火で焼いてそれをあなたにあげるからゆっくり森にいてください」と言うた。

さうして燃え盛る薪の山の中に飛び込み自分の体を犠牲にしようとしたのだが、不思議なことに兎の体は焼けなかった。というのは、そこに来ていたバラモンは、実は帝釈天というインドの神で、兎を試すためにそのような姿にやつしていたのであった。

帝釈天は、「賢い兎よ、お前の天晴れな行いは広い世界中に知らせてやらねばらぬ」と言うて1つの山を押しつぶして、その山から出た汁で月の面に兎の姿を描いた。そうして兎を藪の中のやわらかい草の上に寝かせてやって、自分は天の世界の宮殿に帰っていった。

月の中に兎がいるというのは、ここから出た話であるが、この説話は日本に入ってさまざまな物語を生んだ。

「十二所地誌新稿」の著者は、「神話に兎が慈悲深いものとして出てくるのも、これに起源を有するのではあるまいか。そうとすれば十二所権現の建設者は偉大なる人である」と結んでいるが、けだし至言である。

わがブログに死ねと書き込む人がいてかたじけないがいまだその時にあらず 茫洋

Wednesday, February 20, 2008

愛犬ムク六周忌

♪ある晴れた日に その21

OH!アデュー 人語をはじめて口にして 
老犬ムクは いま身罷りぬ

ネンネグー 阿呆ムク 可愛ムク 処女のムク
盲目のムク いま昇天す

鎌倉の 山野を駆けし細き脚 
そのマシュマロの足裏を ぺろぺろ舐めおり

ここで跳べ! ザンブと飛び込む滑川 
ウオータードッグよ 輝きの夏

大蛇(くちなわ)を ガブリくわえて二度三度
振って廻して ぶん投げしムク

ヒキガエルの逆襲浴びし野良のムク
目の毒液をヒリヒリはがす 

十七年 一直線に駆け去りぬ 
今一度鳴け 野太きWANG!
  
「狂犬病の注射に出頭せられたし。佐々木ムク殿」と鎌倉保健所は葉書を寄越せり

庭に眠るムクのからだの腹のあたり 
濃き紫のアサガオ咲きたり

崖下の庭の土なるムクの墓 
アオスジアゲハの雌雄乱舞す

まぎれもない獣の臭いが好きだった
丘の上にて尾振りし汝(なれ)の

春風に吹かれて一声吠えるムク

丘に立ち一声吠えしうちのムク