照る日曇る日第558回&闇にまぎれてbowyow
cine-archives vol.374
題名の通り、この偉大な映像作家の一九六〇年代の作品についての製作過程と撮影現場の実態をくわしく掘り下げた七〇〇頁になんなんとする長編力作です。
ゴダール研究家の著者は、冒頭の「勝手にしやがれ」(これは恣意的な悪い邦題です。原題は「息も絶え絶え」。本作だけは一九五九年の製作)を皮切りに、六〇年の「小さな兵隊」、六一年の「女は女である」、六二年の「女と男のいる舗道(原題「自分の人生を生きる」)、六三年の「カラビニエ」と「軽蔑」、六四年の「はなればなれに」と「恋人のいる時間(原題「結婚している女」)」、六五年の「アルファヴィル」と「気狂いピエロ」、六六年の「男性・女性(原題「女性」)」と「メイド・イン・USA」、「彼女について私が知っている二、三の事柄」、六七年の「中国女」と「ウイークエンド」の一四本の作品について徹底的な検証を行っています。
いずれもゴダールの代表作ばかりですが、ここに収録された関係者たちのインタビュー、ゴダール自筆のシノプシスやシナリオ、撮影段取表や図録を眺めたり読んだりしていると、そのむかし新宿のアートシアターギルドなどで初めて観た「本場の」ヌーベルヴァーグの衝撃が改めて蘇ってくるようでした。
本書では撮影監督の盟友ラウール・クタールやプロデューサー、男女の俳たちやゴダールのかつての妻アンナ・カリーナとアンウ・ヴィアゼムスキーが数々の証言を行っており、映像の背後の生々しい愛憎や思いがけない逸話(例えばゴダールは意外にも予算や納期等に関する契約を忠実に順守していたこと、じつは「勝手にしやがれ」に即興的な演出は無かったことなど)も飛び出してきて、読み飽きることがありません。
一九七九年の「勝手に逃げろ/人生」の商業映画再登場まで、極左映画のワンダーランドに愉しき彷徨を続けたゴダールですが、彼の若き黄金時代を回顧するためにこれほどふさわしい書物はないでしょう。
なお本書を翻訳された奥村昭夫氏が昨年亡くなられた。心からお冥福をお祈りします。
君と僕エンドクレジットの音楽が途切れたときのように気まずい 蝶人
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