♪音楽千夜一夜第35回
たまにはコンサートに行きたいと思うのだが、「音楽の友」などを眺めていてもろくなものがないし、あってもべらぼうな値段であるからしてルンペンプロレタリアートの私にはとうてい懐にそんな余裕がないし、よしんば無理に出かけて行っても右隣の男性の体臭や鼻息やら(一息ごとにフガアア、ムガアアと破裂音をあたりに発してやまぬ煙草臭いオヤジの首を絞めてやりたいとこれまで何度思ったことだろう)、左隣の若い女性の醜からぬ容貌やら立ち昇る香水の匂い(ちなみに体臭の薄いか皆無に近い日本人に油くさい西欧人のワキガ消し用に開発された濃厚な香水なぞサントリーホールでも電車でもはたまたフランスベッドでもまったく無用の長物、臭覚に敏感な男性は必死で吐き気とめまいをこらえているのだよ)やら、時折演奏中になり始める携帯の呼び出し音などが絶対に気になるし、期待して行っても大半のコンサートは感銘率1%以下であることがあらかじめ統計的に分かっているし(小沢とN響はゼロ%)、どうせあとで録音や放送やDⅤDになるだろうし、そんなことなら近所で一生懸命に歌う鶯のさえずりを聞いたり、朝比奈峠でようやく成熟のときを迎えたオタマジャクシと遊んだり、太刀洗の渓流でたわむれるモンキアゲハの飛翔に見入っていたほうがよほど清涼されるに決まっているので結局は出不精を決め込んでいる私だが、たまたま新宿のタワーを覗いてみたら、偉大なるワグナーの代表作品を33枚に収めたデッカのCDコンピレーションセットを9000円で売っていたので,愛用の赤くて小さな手帳を取り出してちびた鉛筆をなめなめ割り算してみたら、なんと@272円と判明したのですぐさま懐中の全財産をはたいて買って家に帰って開いてみたら、これみなバイロイトフェスティバルのライブ録音ばかりで、ベーム翁の指輪やトリスタンとイゾルデを目玉に、レバインのパルシファル、サバリッシュのオランダ人、ローエングリン、タンホイザー、バァルビゾのマイスタージンガーのいずれもが全曲録音で揃っていたので、クラーバーを凌ぐ名演奏・名録音のトリスタンだけは手持ちとダブリになってしまったが、それもよくあること、モーツアルトほどではないにせよ私が愛してやまないリヒヤルトの傑作をこれから1枚1枚なめるように聴いてやろうと思っただけでもうれしくなって、窓を開ければまたしても鶯が「ホーホケキョ」とうれしそうに鳴いたのであった。
善ちゃんから経済学部進学を相談されたときあまり親切ではなかったなあこの私 茫洋
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