照る日曇る日第122回
「太平洋の防波堤」が著者の心のポジ小説であったとすれば、これはその同じ小説のほぼ同じシーンをもういちどえぐった自伝的ネガ小説とでもいうべきものだろうか。
ふたたび仏領ベトナムの地にさすらう孤独な母と二人の兄、さうして作者を思わせるこの小説のヒロインが登場して、17歳の少女の中国人との愛が語られる。
17歳といえばさかりのついた犬のような年頃で、少女は年上の金持ちの中国人に彼が娼婦と寝るときのように荒々しくやってほしいと頼み、その切なる願いはたちまちかなえられる。
この年代では、女も男も、彼らの内なる欲望は現実のものになるか、それとも実現されずに闇の溝水のなかに排泄されるかのどちらかなので、どちらかといえば、実際に夜な夜な愛し合い、性交を繰り返すほうがあらゆる意味で望ましいのである。
やがて南国の真昼に果てしなく燃え上がる激烈な恋の物語は、実際に著者を訪れた現実と同じように突然の終局を迎え、サイゴンから地中海に向けて大型客船は出航し、あとには愛を失った男とひとすじの煙が残された。
少女はなにせ作家の卵だったから、「18歳で年老いた」と抜かすのだが、尻こだまが抜けて廃人同様になったのは、もちろん男のほうだった。いずれにしても、書いた方が勝ち、書かれたほうが負けである。そのうえこんな話を映画にするやつがいるのだから、どうしようもない。
またしても5月3日がやってきたとく天皇制を廃止せよ 茫洋
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