Sunday, April 08, 2012

小林正樹監督の「人間の條件・第6部 曠野の彷徨篇」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.225

 逃亡兵を引きつれて秋深い旧満州を放浪する梶は、一人の老人(笠智衆)に率いられた女たちが住む家を見出す。その夜寄る辺なき女性たちは自らの身体を開いて男たちを招き入れたが、高峰秀子扮する人妻の誘いを、梶は断って独り朝を迎える。

 翌朝やって来たソ連兵たちを前にして梶たち日本兵は投降して捕虜となったが、ここも安住の場所には程遠く、誇り高い我らが主人公は森林鉄道の強制労働に駆りだされるが、その間に息子のように可愛がっていた新兵(川津祐介)を執念深い旧敵(金子信雄)のために殺されてしまう。

 怒り狂った梶はその伍長を殺してから収容所を脱走し、雪降る荒野の涯に小さな白い丘となって斃れる。最愛の妻美千子の名を呼びながら……。

 まことに残酷で可哀想な最期を遂げた梶ではあったが、内務班の暴力に耐え、戦場の露と消えずにここまで逃げおおせたのであれば、ソ連兵のイデオロギー攻勢になんとか耐えて、最悪はシベリア送りになったとしても命だけは取り留めて帰国出来たのかもしれない。

 ともあれ、人々の平穏な暮らしのかけがえのなさを奪い去る戦争の過酷さと愚かさを思い知らしめる比類なき反戦連作映画として、その表現技法や俳優の演技をうんぬんする以前に大きな推奨に値するだろう。


いいねいいねと内輪褒めしているうちに沈没していく私たち 蝶人

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