Saturday, April 07, 2012

小林正樹監督の「人間の條件・第5部死の脱出篇」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.224

 梶は生き残りの部下たちと共に妻美千代の住む方角をめがけて脱出行を試みるが、途中でソ連兵の斥候と遭遇したためにやむを得ず彼を刺殺してしまい、血に染まった右手を何度も見詰める。彼には何の恨みもないが、梶は自分が生き延びるために人を殺してしまったのである。

やがて梶は、ちりじりばらばらになった兵や民間人の逃亡者と一緒になり、喰うや喰わずの生き地獄の森の中で多くの犠牲者を出しながら辛うじて脱出したが、ようやく見つけた農家で、梶に好意を抱いていた娼婦(岸田今日子)を現地人に殺されてしまう。

彼等の急襲から逃れて偶然社会主義者の丹下一等兵(内藤武敏)と再会した梶だったが、あくまでもソ連を理想化する丹下との間には次第に溝が出来ていく。やがてまた逃亡する邦人女性の一行と出会った梶は、いたいけな少女中村玉緒の処女を仲間の兵たちに蹂躙されてしまうのであった。

本作品ではヒューマニストであるのみならずフェミニストでもある主人公の正義感振りが力強く表現されている。当時梶のようにそれなりに民間人を保護誘導し、食料を分け与えて人間並みに取り扱った兵隊が果たしてどれくらいいたのだろうか。甚だ疑問である。


俳諧を第二芸術などと侮蔑した男ももう死んだ 蝶人

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