Friday, April 13, 2012

ボストン美術館「日本美術の至宝」展を見て

茫洋物見遊山記第83回


といっても米国のボストンまで行ってきたわけではありません。櫻満開の上野の東博平成館でつらつら見物したのです。

そこにはかの岡倉天心やフェノロサなどが本邦からせっせせっせと持ち運んだ国宝級の仏像、仏画、絵巻物、中世水墨画から近世絵画、染織、刀剣がワンサと並んでおりましたが、私の目をくぎ付けにしたのは、やはり「吉備大臣入唐絵巻」と「平治物語絵巻」でありまして、とりわけ後者の猛火と群衆の動的描写にはほとほと感嘆、二嘆、三嘆いたしました。

お次は長谷川等伯六八歳最晩年の傑作六曲一双の「龍虎図屏風」の圧倒的な壮観で、尾形光琳のポップモダンな「松島図屏風」も相変わらず良かったが、芸術の品格からいえばやはり等伯に軍配が挙がるでしょう。

それよりなにより奇想の芸術家と称される曽我蕭白の作品がなんと一一点も並んでいるのは春の珍事、驚異の眼福と言わずにおらりょうか。どれもこれも素晴らしいが、吾輩が一等感涙にむせんだのはやはり宝暦一三年制作の「雲龍図」で、真ん中の胴体が欠落しているのがいささか無念ではあっても、この気宇壮大なること空前絶後の恐るべき頭と尻尾をいつの間にか両の掌を合わせてつらつら眺めているうちに、嗚呼、ありがたや有り難や、あろうことか涙さえ流れてくるではありませぬか。

こんな世紀の逸品をどさくさまぎれに太平洋の彼方まで運び去ったウイリアム・スタージス・ビゲローは思えば小憎たらしい男ですが、当時の日本人なぞ及びもつかない目利きだったことが痛いほど分かります。これこそ日本芸術の最高峰であるのみならず、世界美術の最高傑作というても間違いないでせう。


気が付けば花散里となりにけり 蝶人

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