茫洋物見遊山記第79回&鎌倉ちょっと不思議な物語第258回
春は名のみ。梅はようやくにして咲いたが桜はまだ河津桜だけというこの時期、東京に出かける元気はないので、地元で長く地獄谷と呼ばれた辺をちょっと散歩しようということになりました。
早朝江の電の極楽寺駅を折りたる時ならぬ人だかり。今週の木曜日に終了するフジテレビのドラマのロケを行っていました。鎌倉の市役所に勤務する中井貴一がきょんきょんと熟年の恋をするというお話で、そのタイトルはP.K.ディックの有名なSF小説「最後から二番目の真実」からの無断のパクリです。
長男が「風のガーデン」にも出演したガブさん役の中井貴一の熱烈なファンなので、わたしが早速写真を撮ろうとしたら、無意味に肥ったプロダクション・マネージャーがすっと飛んで来て「駄目駄目」というので、諦めて極楽寺に向かいました。
極楽寺を出てもまだ本番のカメラは回らず、プロマネが声をからして車や通行人を停めたりしています。その間およそ五〇人の俳優やスタッフや警官や駅員は辛抱強く待機したまま。映画でもテレビでも九割は待機時間が続くのです。
観光客目当ての鎌倉市と視聴率目当ての民放が結託した大政翼賛番組を冷ややかな視線で突き放しながら、極楽寺の近所にある成就院に向かいました。毎年梅雨時になると商魂たくましい住職が石段のまわりに植えたアジサイを見物するために各地から観光客が押しかける成就院ですが、この時期には人影もまばらです。
この坂の上のお寺は、承久元年1219年に3代執権北条泰時が都から高僧を招いて創建されましたが、新田義貞が鎌倉に攻め込んで稲村ケ崎のアサリを踏みつぶした元弘3年の戦火で焼亡し、再建されたのは江戸時代です。境内には弘法大師像や八角堂等がありますが、そんなことより境内を過ぎて見下ろす由比ヶ浜の眺望が素晴らしい。
麓の星月井の傍には同院が管理する虚空蔵堂があり、奈良時代に行基が奉ったと称される秘佛虚空蔵菩薩が安置されているので創建はこちらの方が古いのでしょう。
鎌倉は井あり梅あり星月夜 子規
人寄せにアジサイ植えるあさましさ 蝶人
明鏡山星井寺に詣で星月井に映る名月を愛で名物力餅を食す 蝶人
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