闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.212
何も知らずに見物し始めたのだが、中陰の状態にある死者に対して「あなたの一番大切な思い出をセレクトしてください。それを映像化してあげますから、それを見てから成仏してください」というサービスを提供する団体の映画だった。
しかし私は、一番大切な思い出なるものをあえて発掘する骨董趣味を持たないし、よしやそれがあったとしても後生大事にそれを胸中に懐いて黄泉の国に赴こうとする気持ちもない。
まして他人のその思い出をのぞき込んだり、ああだこうだと比較対象する興味も持ち合わせていないので、終始冷たい視線でこの才走った監督の映像をつらつら眺めていたのだが、最後まで見終わってもついにどうということはなかったな。
されど世の中には、じつにけったいなことを考え、それをわざわざ映画などにする変態的な暇人がいるものであることよ。と言っては身も蓋もないので、せめて本作には谷啓や由利徹の死の直前の演技が瞥見できるのが望外の奇貨である、と言い添えておこうか。
一寸来いと呼ばれて行けばコジュケイの家族哉 蝶人
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