♪音楽千夜一夜 第243回
2011年1月にミラノ・スカラ座で上演された「カヴァレリア・ルスティカーナ」(マスカーニ)と「道化師」(レオンカヴァルロ)の衛星放送の録画を鑑賞しました。指揮はどちらもダニエル・ハーディング、演出はマリオ・マルトーネという人です。
このヴェリズモ・オペラの演奏で私の脳裏に焼き付いているのは、同じスカラ座をカラヤンが指揮した映像です。劇伴は同じ名門オーケストラですが指揮者が違えばこうも印象が違うものか。両曲ともカラヤンに比べて早い速度で、あの有名な間奏曲にしてもなんの思い入れもなくあっさりと通り過ぎていきます。
楽譜の意味を深く読むこともなく表層のカッコよさだけを追い求めるこの若者の音楽はわたしのような保守反動の徒にとっては唾棄すべき代物でしたが、伝統あるオケも観衆もブーの人声もなく唯々諾々と従っている姿には驚きを通り越してただただ情けない。死せる作曲家たちやトスカニーニが聴いたら激怒するでしょう。
歌唱陣も凡庸な指揮と似たりよったりの出来栄え。ドミンゴでは聴衆の涙を誘ったレオンカヴァルロの有名なアリア「衣装をつけろ」でしたが、今回のホセ・クーラでは嘘泣きしているのはクーラだけ。こんな下手くそにブラボーと叫んでいるミラノのお客は完璧な阿呆です。マスカーニをまずは無難に唄い上げたリチートラが不慮の事故で夭折したのは残念なことでした。
というわけで総じて評価するべきはマリオ・マルトーネの演出のみ。現代の高速道路下に芝居小屋を設営した意匠は卓抜なものがありましたが、ダニエルよ、お前さんはスカラ座で振るには30年早い。
歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」(マスカーニ) & 歌劇「道化師」(レオンカヴァルロ)
指揮:ダニエル・ハーディング 演出:マリオ・マルトーネ 出演ルチアーナ・ディンティーノ、サルヴァトーレ・リチートラ、ホセ・クーラ等。
なぜ脳しょうぐあいの君だけにピアノが弾けるのとても不思議だ 蝶人
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