Thursday, January 26, 2012

溝口健二監督の「祇園の姉妹」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.192

1936年の製作。かなりの部分のフィルムが失われてしまったが鑑賞に差し支えは無い。京の祇園の芸者として生きる2人の姉妹の物語である。

梅村蓉子が演ずる姉は倒産して無一文になった木綿問屋の主人の面倒を見るという昔ながらの義理人情を大事にする古風な女だが、当時18歳の木暮三千代演ずる妹は正反対のモダンガール。姉の情人を手切れ金で追い出して別の男とくっつけ、自分は呉服屋の若い番頭、ついでその主人を手中に収めてしまう。

万事快調、妹の凄腕の細腕一つで色ボケ親父を完璧にぎゅうじったかに思えたが、それも一瞬のこと。好事魔多しとはよく言ったもので、妹は恨んだ番頭にさんざん痛めつけられ、そのうえ主人の秘密を呉服屋の細君に内報されたために「なんで芸者なんかがこの世にあるんやろ」と恨みながらよよと泣くのが全巻のおわりだが、おのれの悲痛と悲惨をそれまでとは打って変わって社会や世の中のせいにするのは脚本の甘さであり、この映画の唯一の弱さであろう。

されど山田五十鈴の美しさと溌剌とした物言い、彼女を借りて新しい女性の生き方を打ち出そうとした脚本と演出は素晴らしくこの映画に不朽の生命を、そして随所で多用される超ロングワンショットが、この物語を遠くから客観視する視点を付与している。最後から二番目のカットのその息を呑む長回しは、映画史上空前にして絶後であろう。

ああこれあるからこそ、世界の溝口なのだ!


東大寺より西大寺が好きな人 蝶人

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