闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.184
アランドロンが1975年に製作・主演した刑事ものサスペンスドラマ。フランスでは国家警察と警視庁の2大警察機構があって昔から仲が悪いそうだが、これは前者に属した実在の刑事が書いた実話を「ボルサリーノ2」の監督が映画化した。
ドロン刑事が追うホシは名優ジャン・ルイ・トランティニャンで、なんでも36件の殺人事件を起こした名うての凶悪犯らしいが、こいつはすぐに拳銃をぶっ放して人殺しをするくせにかっこいい。官僚組織の中でいつも上司のプレッシャーを受けているドロン刑事がいつしか共感を覚えるのも分かるような気がする。
レストランのピアノでピアフの曲を弾いているドロンの恋人役のクローディーヌ・オージェに近づくシーンなどもあやしい緊張感があり、彼女が犯人の眼が優しいと語る箇所もあってこの2人は以前関係があったのではないかという気もしたが、そういうあいまいな演出をしてみせたのであろう。
結局さしもの凶悪犯もドロン刑事の大陰謀にひっかかって捕えられ、死刑に処せられるのだが、全篇に流れるニヒルでアンニュイなモードが好ましい。大取りものとは関係なくキャメラが映し出すパリの街頭や路地やメトロの風景とゆるい時間の流れがかつてのフランス映画の魅力であったが、いまや絶滅に近い希少種となってしまった。ドロンもいつもと違ってあまりカッコつけずに駄目刑事振りを披露していて好感が持てる。
鎌倉の改札口で美しき女性と接吻していた小泉画伯みまかりにけり 蝶人
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