Friday, January 20, 2012

フランソワ・トリュフォー監督の「突然炎の如く」を見て

闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.189

久しぶりに見返したがやっぱり素晴らしい作品だ。トリュフォーは映像をスタッカートのように歯切れよく切り刻む。それがシーンごとの意味を切れる寸前に浮かび上がらせ、これを推力にして次のシークエンスへと自然につながるのだ。この自然さは完全に人工的にして計画的な手法であり、ゴダールなど他のヌーベルヴァーグの作家もよく使った。

 この演出に乗ってジュールとジムの物語とカトリーヌの狂熱の恋は猛烈な速度で前進し、戦争で急停止し、また再出発して蝮のように絡み合い、河の上の橋を落下する自動車と共に終わる。

はずだったが、それは普通の映画のやることで、トリュフォーは死んだ二人の棺桶が荼毘に付され、それが業火で焼かれて白い骨となり、骨壺に入れられて冷暗所に安置されるところまできちんと見届ける。この冷静な視線こそトリュフォーだ。

ジュールは2人の骨を混ぜてやろうと望み、カトリーヌは自分の骨を風に撒いて欲しいと願っていたが、この映画では出来なかったことがいまでは出来るようになった。40年間かかって、人類もそれくらいには進歩したといえるだろう。

余談ながら「突然炎の如く」なぞという軽薄で胡散臭い邦題を誰がつけたのか知らないが、今からでも遅くはない。これは原題の通りに「ジュールとジム」に即刻戻すべきだろう。

光明寺に去りし隣の美女が来てナシの種呉れし満月の夜 蝶人

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