Saturday, January 21, 2012

吉川一義訳「失われた時を求めて2」を読んで

照る日曇る日第486回

はじめはどうということのない女(男)だったが、そのうちに妙に気になり、ある日ある時の四囲の自他の状況の偶発的必然性(後から考えた)の相対的因果関係にからめとられる形で、当該の男と女のいずれかが絶対的恋愛関係の磁場に吸着されることは往々にしてあるようだ。

本巻で開陳されるスワンとオデットの人情肉布団もまさにそれ。しかも当初は男性が優位に展開していたはずのインターコースが途中で完全に逆転し、男は女の思
いのままに翻弄トイトイされてゆく。昔風の差別用語を使うなら、誰とでも寝る裏社会の女郎風情に毎月五百万円!をみつぎながら社交界の人気ダントツ男が下賤のライバルに寝取られてコキュに甘んじるのだから世話はない。

 されどこれこそが現世の修羅場をあいわたるしがない渡世人の世は情け西洋人情裏話。何が何として何とやら。親の因果が報いたか。それとも前世の因縁か。天に唾すれど答えなく。地に尋ねてもいらえなく。夕べになるともい寝られず。懊悩転転朝が来て。悩みは深き恋の井戸。あれ聴こゆるはフランクの。ヴィオロンの音ではないかいなあ。テテツレテン。テテツレトン。テテツレテン。テテツレトン。ついに男は阿鼻叫喚、果てなき無限地獄へ堕ちるのじゃあ。はれ堕ちるのじゃあ……

     恋は狂気の沙汰にしてつける薬はないわいなあ 蝶人

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