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Tuesday, March 27, 2012

バレンボイム指揮スカラ座の「ドン・ジョヴァンニ」をビデオで鑑賞する

♪音楽千夜一夜 第254回

2011年12月7日、世界の一流オケとオペラハウスを渡り歩いた舞酢吐露馬連母威武がついにミラノのスカラ座を射止め、このモーツアルトがそのお披露目となりました。なんせ大統領と首相臨席のスカラ座でイタリア国歌を振るのだから物々しい。

バレンボイムの指揮は三〇年前に巴里のシャンゼリゼ劇場でパリの管弦楽団とやったときとまったく同じぎくしゃくして不自然でとってつけたような劇伴ですが、ドンナ・アンナにアンナ・ネトレプコ、ドンナ・エルヴィーラにバルバラ・フリットリという配役が凄いので、いやがうえにも期待が盛り上がります。

才人ロバート・カーセンの演出はこの二人の裸や下着姿、とりわけ乳房の谷間をこれでもかこれでもか見せつけようとするもので、個人的にはなかなか楽しめましたが、冒頭ドン・ジョヴァンニに強姦されているはずのドンナ・アンナが快感に悶えているという演出はいくらなんでも行きすぎではないでしょうか。その忘れられない男の顔をようやく思い出すのが2幕になってからとは、なんぼなんでも遅すぎるでは。

それにしてもあれほど純情可憐だったアンナ・ネトレプコがころころ無様に肥ったこと。まるで人類ではなく子豚のような顔つきでモーツアルトのアリアをヴェルディ風に激唱する姿には驚かされました。この人に歌唱指導者はいないのでしょうかね。カラヤンなら首にしますよ。

それでも全盛期を過ぎて高音がまるで出ないバルバラ・フリットリよりははるかにましな演奏でしたが、表題役のペーター・マッテイも終始衛生無害のボンボンにしか見えず、辛うじて鑑賞に耐えたのはウエールズの快男児ブリン・ターフェルひとりという体たらく。こんなおそまつなプルミエにやんやの拍手喝采を呉れているスカラ座の観衆が阿呆に見えてしかたのないハイビジョン映像でした。

いやあモーツアルトのオペラって難しいですねえ。


配役 ドン・ジョヴァンニ:ペーター・マッテイ、ドンナ・エルヴィーラ:バルバラ・フリットリ、ドンナ・アンナ:アンナ・ネトレプコ、ドン・オッターヴィオ:ジュゼッペ・フィリアノーティ、レポレロ:ブリン・ターフェル、ツェルリーナ:アンナ・プロハスカ
マゼット:ステファン・コツァン、騎士長:クワンチュル・ユン


交合をかくにんした人とパンダの恥ずかしさ 蝶人

Saturday, March 10, 2012

バレンボイム指揮スカラ座「ワルキューレ」を見て

♪音楽千夜一夜 第248回

東洋の一視聴者の声を聴き届けたのか、二〇一〇年一二月七日に上演されたワーグナーの「指輪」の第二作ですが、指揮者も出演者も圧倒的な名演を繰り広げています。

第一幕ではウオータンの双子の兄妹が敵役のフンディングが寝入った隙に愛し合い、サイモン・オニールにおけるジークムンデ役のサイモン・オニールとジークリンデ役のワルトラウト・マイアが熱唱しますが、ここまでは序の口。

2幕のワルキューレたちの乱舞も楽しめますが、とりわけ感動的なのは第三幕のヴオータン(ヴィタリー・コワリョフ)と愛娘ブリュンヒルデ(ニナ・シュテンメ)の最後の別れの場でありまして、ここでのギー・カシアスの歌舞伎的な演出と親娘の演技とスカラ座の嗚咽するような劇伴は、涙なしには見ることも聴くこともできません。

さすがのワルトラウト・マイアにも声の衰えが隠せず、最上の配役とはいえなかったにもかかわらず、ワーグナーの楽劇の素晴らしさをとことん賞味することができました。これこそがミラノスカラ座の真骨頂というべきでしょう。(2010年12月7日収録)


電気消え信号が消え車消え星無き空に人語絶えたり 蝶人

Thursday, March 08, 2012

森本恭正著「西洋音楽論」を読んで

照る日曇る日第502回&♪音楽千夜一夜 第247回


クラシックに狂気を聴け、という副題が付いているのだが、全体をつうじてこの人がいったい何を言いたいのかさっぱり分からなかった。

この人がライブやCDを聴くと演奏を聴くと、欧州人の音楽はアフタービートで、日本人は前拍なので邦人演奏家のものはすぐに分かると豪語するのであるが、ほんまかいな。

楽聖ベートーヴェンはほとんどの作品をアフタービートで書いたが第9交響曲の終楽章だけはオン・ザ・ビートで書いたとか、同曲の同楽章の冒頭で「おお友よ、このような音ではなく」とバスが歌い出す直前のオーケストラの強奏で不協和音が鳴り響くのは、「このような非整数の倍音によるノイズ音楽を諸君は受け入れるのか? いやそうじゃないだろ?」と語りかけているのだという著者の推論は、どちらかというと誇大妄想の類ではないだろうか。

しかし「君が代」は世界で唯一戦争を放棄している国家にふさわしく、ヨーロッパの旋律で作られていない(右翼的ではなく)右脳的な国歌であり、いくら軍隊に強いてもこの行進曲では歩けない反戦的な国歌であるという指摘はなかなか興味深いものがあった。


「君が代」は右翼的にあらず右脳的国歌とはつゆ知らざりき 蝶人

Saturday, January 28, 2012

ローラント・ベーア指揮スカラ座の「魔笛」を視聴する

♪音楽千夜一夜 第244回

2011年3月といえば大震災の頃だが、ちょうどその頃にミラノで上演されたモーツアルトの遺作オペラの録画を視聴。さすがはスカラ座という清明な音で序曲が始まったので大いに期待しました。

さてどういう大蛇が出てくるのかと楽しみにしていたが、結局造り物は登場せずアニメみたいな映画の初期の頃のようなあめふらしの映像が出てくる。こういうやり方は最後の最後まで変わらず、ウイリアム・ケントリッジという演出家がコンピューターを駆使した最新の3Dとかに熱意を燃やすその程度の下らない奴だと知れる。衣装だって男はみな普通のスーツ、女はカジュアルなドレスをぞろぞろきているので、せっかくパパゲーノとモノタノスが出喰わしても驚くことができない。ともかく昔の物を現代に塗り変えればよいと信じ込んでいる阿呆の仕事だ。

歌手もみな2流か3流どころで、ややまともに唄えていたのは夜の女王のただひとり。魔笛というオペラの背骨は彼女のたった2つの超絶アリアで成立しているので、これが壺をはずしていると最悪だが、その点ではまあ良かった。

そんな次第でようやく幕が降りるがまだしつこくCGのお絵描きゴッコをやっている。なんの霊感もないルーチンワークの下らない演奏にラアラアと歓声を上げているスカラ座の観客を見たら、死せるトスカニーニも激怒するだろう。墜ちるところまで落ちればいつか浮かぶ瀬もあるのだろうか。

この録画放送の案内をしている顔がグチャグチャになった作曲家が、最近の研究でモーツアルトの妻コンスタンツエと彼の弟子のジュスマイアーが不倫していたことが判明したと語っていたが、ほんとななあ。

出演:サイミール・ピルグ、アリビナ・シャギムラトワ、ゲニア・キューマイア他 
指揮:ローラント・ベーア 演出ウイリアム・ケントリッジ


アラカシの枯葉に似せて横たわるムラサキシジミに幸いあれ 蝶人

Tuesday, January 24, 2012

ダニエル・ハーディング指揮スカラ座のヴェリズモ・オペラ二曲を視聴する

♪音楽千夜一夜 第243回

2011年1月にミラノ・スカラ座で上演された「カヴァレリア・ルスティカーナ」(マスカーニ)と「道化師」(レオンカヴァルロ)の衛星放送の録画を鑑賞しました。指揮はどちらもダニエル・ハーディング、演出はマリオ・マルトーネという人です。

このヴェリズモ・オペラの演奏で私の脳裏に焼き付いているのは、同じスカラ座をカラヤンが指揮した映像です。劇伴は同じ名門オーケストラですが指揮者が違えばこうも印象が違うものか。両曲ともカラヤンに比べて早い速度で、あの有名な間奏曲にしてもなんの思い入れもなくあっさりと通り過ぎていきます。

楽譜の意味を深く読むこともなく表層のカッコよさだけを追い求めるこの若者の音楽はわたしのような保守反動の徒にとっては唾棄すべき代物でしたが、伝統あるオケも観衆もブーの人声もなく唯々諾々と従っている姿には驚きを通り越してただただ情けない。死せる作曲家たちやトスカニーニが聴いたら激怒するでしょう。

歌唱陣も凡庸な指揮と似たりよったりの出来栄え。ドミンゴでは聴衆の涙を誘ったレオンカヴァルロの有名なアリア「衣装をつけろ」でしたが、今回のホセ・クーラでは嘘泣きしているのはクーラだけ。こんな下手くそにブラボーと叫んでいるミラノのお客は完璧な阿呆です。マスカーニをまずは無難に唄い上げたリチートラが不慮の事故で夭折したのは残念なことでした。

というわけで総じて評価するべきはマリオ・マルトーネの演出のみ。現代の高速道路下に芝居小屋を設営した意匠は卓抜なものがありましたが、ダニエルよ、お前さんはスカラ座で振るには30年早い。



歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」(マスカーニ) & 歌劇「道化師」(レオンカヴァルロ)
指揮:ダニエル・ハーディング  演出:マリオ・マルトーネ 出演ルチアーナ・ディンティーノ、サルヴァトーレ・リチートラ、ホセ・クーラ等。


なぜ脳しょうぐあいの君だけにピアノが弾けるのとても不思議だ 蝶人

Sunday, October 23, 2011

ヘンデルの「オペラ・コレクション」を聴いて


音楽千夜一夜 226

大廉価メーカーのソニーグループが傘下レーベルを総動員して編んだヘンデルの偉大なオペラを2週間ほどで聴き終えました。

この「音楽の母」には全部で40曲以上のオペラがあるようですが、そのうちの比較的ポピュラーな8曲、すなわちリナルド、ジューリオ・チエーザレ、タメルラーノ、ロデリンダ、アレッサンンドロ、ロターリオ、パルテーノペ、セルセをジャン・クロード・マルゴワール指揮王室大厩舎・王宮付楽団、ジュリアス・ルーデル指揮ニューヨーク市オペラ管、ミハエル・シュナーダー指揮ラ・スタジヨーネ、クイケン指揮ラ・プチットバンド、アラン・カーチス指揮イル・コンプレッソ・バロッコでくいくいと聴かせてくれる素敵な22枚組CDセットです。

80年代初頭のサンフランシスコでは、ヘンデルのオペラに初めて接したというバークレー校の大学生が、オペラハウスで興奮しながら「これは誰の作品か」と東洋人の私に尋ねたくらいマイナーな存在でしたが、今では世界中でライブが興行されて多くの聴衆を集めるようになり同慶に堪えません。

どの曲も演奏も録音もすぐれていますが、とびきり新鮮なのはマルゴワール指揮王室大厩舎で、古楽器ながら現代的センスと解釈で、いつまでも私のロバの耳を惹きつけてやまないのでした。

狭き庭に巨大なを植えし人 蝶人