遥かな昔、遠い所で第53回
日曜日には時々主人と共に本郷教会へ礼拝に出かけた。教会も階下は食糧倉庫になっており、礼拝を守る人数も少なくなっているので、会議室のような所で行われたが、安井てつ女史が黒紋付の羽織姿でいつも出席され、賛美歌の奏楽は大中寅二先生であった。
昼食は牧師夫人が用意してくださる事もあり、青山5丁目の長兄宅に立ち寄りご馳走にもなった。長兄の家の隣に土屋文明先生のお宅があり、急に身近な人のように感じた。
銀座へ廻る時もあったが、防空壕が出来るのか、舗道のところどころが掘り返されていた。綾部ではモンペ姿が通常であったが、道行く人は和服の着流しも多く、東京の人の方が余裕があるなとほっとしたが、レストランで出された大根葉のスープには驚いた。
夫の長姉の夫は海軍主計中将であったので、お祝い事で水交社へ招かれた事がある。ここばかりは昔ながらのフルコースである。まだこんな世界もあるのかと、これにも驚いた。
或る日突然雀部の父が出張で上京し、歌舞伎座へ私達夫婦を招待してくれた。出しものは「菊五郎の襲」と「羽左ェ門の勧進帳」であった。幕際で六法を踏む弁慶の姿が忘れられない。戦前の歌舞伎座で今はない名優の芝居を見た。数少ない東京での豪華な思い出である。
♪十両、千両、万両 花つける
我庭にまた 億両植うるよ
♪命得て ふたたび迎ふる あらたまの
年の始めを ことほぎまつる
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