Saturday, December 15, 2007

坂口弘著「常しへの道」を読む

照る日曇る日 第77回

1972年2月19日のあさま山荘事件で警察官2名、民間人1名が射殺され、同年3月に群馬県の山林で12人、千葉県で2人のリンチ殺人が行なわれた。そしてこのすべての事件に直接かかわっていた坂口弘の2番目の歌集が、この「常しへの道」である。
その題名は、旧約聖書詩篇49章9節の「魂を購う価は高く、とこしえに、払い終えることはない」によっている。

坂口は、たしかにリンチに加担した。

途方もなきわれらの事件よ
主導者の独りよがりも
桁外れなりき

年雨量の三分の一が降れる日よ
銃撃ちまくれる
かの日思えり

腫れ上がる顔面といふより
膨れ上がる顔面といふべし
リンチの凄惨

坂口は、とても生真面目な性格の持ち主である。

新左翼運動を誰一人として
総括をせぬ
不思議なる国

人の為ししことにて
解けぬ謎なしと
信じて事件の解明をする

指導部の一員なれば
その罪を
組織に代わり負うべきと知る

坂口は、日々死におびえる死刑囚である。

おそらくは
妻子と離縁をせしならむ
苗字を変へて執行されたり

執行のありしこと知り
下痢をしぬ
くそ垂れ流し曳かるるはこれか

望みなき
わが人生の終点に
転車台のごときものはあらぬか

坂口には、愛する家族がある。

明日もしお迎えあれば
今際なる父の食みしごと
林檎食みたし

これが最後
これが最後と思ひつつ
面会の母は八十五になる

また坂口は、啄木を愛する詩人である。

気配せる
闇の外の面に目を凝らせば
ああ落蝉の羽撃きなり

屋上へ運動に行かむ
梅雨なれば
綾瀬川の水匂ひもすらむ

知らぬまに花茎を伸ばし
ふいに立つ
死神のごと彼岸花咲く

しかし坂口には、まだいうべきことがある。

かの武闘を
論外なりと言われしが
核心を衝く批判はされざりき

坂口の
死刑執行がまだされずと
不満を佐々氏が述べてゐるなり

死刑ゆえに
澄める心になるという
そこまでせねば澄めぬか人は

悪党といふ他はなき男はや
絞首刑されよ
とまでは言はずも

そして坂口は、昔のわたしに少し似ている。

演説のできぬ
左翼にありしかど
焚き付くるほどの怒りもなかりき



♪一日一恕の幸せを君に 亡羊

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