遥かな昔、遠い所で第60回
父と一人娘と養子、というだけでも仲々むずかしい人間関係であるのに、継母との関係もあり、父の積極的な性格に、養子タイプのおとなしい夫の性格は相反して、却って相性がいいのではと、私は思ったのであるが、綾部での同居の生活が始まってからは、それぞれに言い分があり、私にはそれぞれの立場が理解出来るだけに、むずかしい立場に立たされる事が多かった。
丁度その時私は居合わせなかったので、直接の原因は分らなかったが、一寸したはづみで、夫はもう限界だからこの家を出て行きたいと、父に言う事件が起きた。夫は抑えに抑えて来た思いを抑えきれず、父に投げつけたのである。
いずれそういう事もあろうかと思っていた私は覚悟はしていたので、父に「長い間お世話になりました。私も夫に従ってこの家を出させていただきます」と言った。
父はただオロオロするばかりであったが、平伏して、「ワシが悪かった。謝る。どうぞ出て行かんでくれ」と夫に詫びた。
その後も、夫は何度か口惜しい思いをしたであろうし、父も我慢出来ぬ我慢をしてくれたであろうが、そうした事は二度と起こらなかった。
程なく、父は履物店の経営には全く口を出さず、経済的にも干渉しなかった。
父は甥達2人と京都でネクタイの事業を再開したのである。
秋たけて ほととぎす花 ひらきそめ
もみじ散りしく 庭のかたえに 愛子
弘安さん納骨の日
なき人を 惜しむように 秋時雨 愛子
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