鎌倉ちょっと不思議な物語57回&勝手に建築観光・第13回
子どもの日は八幡様は雑踏でごったがえしていたが、一歩木立の中に入ると閑静だった。
名匠坂倉準三が設計した東急文化会館はすでに消失したが、ここ鎌倉の神奈川県立近代美術館は降り積もる歳月の底でどっしりと、そして軽やかに持ちこたえている。
最近東京のど真ん中にできた3つの美術館なぞ、犬に食われてしまっても構わないけれど、この小さな美術館だけは、どうかいつまでもこの源平池のほとりの美しい景観の中で独り静に佇んでいてほしいものだ。
ここは美術館がすでにして生きた美術でも、ある数少ない文化遺産なのである。
家族揃って開催中の「近代絵画の名品展―高橋由一から昭和初期まで」を見る。
すでに何度も見たことのある懐かしい作品たちを、明るい緑の光が差し込む部屋から部屋へとぽつりぽつりと散歩しながら見てゆくこの喜びは無上のものである。
高橋由一の「江ノ島図」、黒田清輝の「逗子五景」、青木繁の「真善美」、高村光太郎の、萬鉄五郎の、岸田劉生のひとつひとつがしみじみと胸の奥に染み込んでいく。
そうしてやはり私が好きな松本竣介の油絵が4点出ていた。「建物」、「立ち話」、「R夫人像」、「自画像」であるが、そのうち死の7年前に描かれた自画像が特に素晴らしかった。
36歳で死んだ竣介は、その聞こえない耳を澄ませて、いつまでも何者かの声に耳を傾けているのだった。
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