Monday, June 25, 2012

新藤兼人監督の「午後の遺言状」を見て




闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.263

すでに死病に冒されていた愛妻乙羽信子の力演は涙なしには見ることができない。しかし相方の杉村春子も朝霧鏡子も観世栄夫も、そしてとうとう監督自身も幽明境を異にしてしまった。この映画はそれらすべての死者たちの遺言状であろう。

元築地小劇場の女優仲間であったという設定の杉村と朝霧(すでにアルツハイマーに冒されている)がチエ―ホフの「かもめ」のセリフを言うシーンは感動的だが、さしたる理由も無く瀬尾智美が滝つぼでスッポンポンになるシーンはもっと感動的である。

朝霧鏡子と観世栄夫夫婦は手を携えて日本海の海に消えてゆくが、これはちょうどこのころに秋田の海にまっすぐ進んで行った老夫婦の事件にヒントを得たのだろう。「午後の遺言状」は彼らが書いたものであるが、ただただ悲しい。

突然レポーター役の倍賞美津子が出てきて杉村選手の写真を撮りまくるが、あれはいったいどういう脚本の趣向なのか不可解なり。


横須賀の医科歯科大の校門に僅かに藍しジャカランダの花 蝶人

No comments: