茫洋物見遊山記第64回
セイ・ハシモトこと橋本精一画伯は1938年神戸市に生まれ、小磯良平、田村孝之助などからデッサンの指導を受け、1961年に日大芸術学部美術学科を卒業し83年文春画廊にて初個展。以後全国の百貨店他で個展を多数開催している。画伯は現在パリと多摩丘陵にアトリエを持ち、旺盛な製作活動を続けている。
残念ながら本日で終了してしまったが、「パリ、多くの細道」と題する今回の展覧会では、巴里の舗道や街角、カフェ、ブテッィク、メトロの駅、古本屋、小窓、煙突、水たまりなどを流れゆく季節の中で拾いあげ、その風景とパリジャンの暮らしを慈しみながら抱きしめるように描いている。
既に30年に亘ってパリを描き続けているこの画家の作風は、かつての暗欝な黒や灰色から青や紫、橙色を効果的に使ったカラフルで自由な世界へと次第に転調しているが、最近では年齢のひろがりと経験の深さに見合った洒脱さとかろみを自然に身につけてきたように思われ、今後の画境の展開が興味深い。
数年前、ところも同じ新宿伊勢丹本館のアートギャラリーで、じっと腕組みをしていた故石井好子さんが、「じゃあややっぱりこれにするわ」といって確かアルマ橋を描いた一金25万円也のパステル画を購入された現場を見たことがある。
作品の多くはパステルと原画にパソコンでデジタル加工を加えた新方式の版画刷りであるが、やはりこの作家の本領は大型の油彩であろう。
No comments:
Post a Comment