Saturday, October 01, 2011

アン・リー監督の「いつか晴れた日に」を見て


闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.149


1995年製作の米英合作映画。漱石がもっとも愛した閨秀作家ジェーン・オースティンの「センス&センシビリティ」を英国の女優エマ・トンプソンが脚色し、台湾人のアン・リーが監督している。

人世の基本は家庭と家族と世間の人間関係にあり、小説の基本もここにあるとするオースティンの小説ほどいたく身にしみるものはないが、これに私淑した漱石もまた同じフレームで「それから」「門」「行人」「心」「道草」「明暗」など彼の後期の家庭小説を書いた。

遺作の「明暗」をのぞいて漱石の家庭小説の大半がペシミスティックで人世深く沈湎して夕べの雲と消えるのに対して、オースティンは山あり谷ありの起伏と波乱を乗りこえて最後には落ち着くべきところに落ち着く。本作における長女エマ・トンプソンがヒュー・グラントに、次女ケイト・ウインスレットがアラン・リックマンと目出たくゴールインするように。

特筆すべきはエマ・トンプソンの脚本で、ラスト近く恋人を取り戻したよろこびに日頃の冷静さをかなぐり捨てて随喜の涙を流す迫真の演技、さらに英国の田舎の美しい風景と共に観客の心を激しく揺さぶらずにはいない。

毎日空の写真を撮り続ける人の心は寂しい 蝶人

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