Tuesday, September 20, 2011

トマス・ピンチョン著「競売ナンバー49の叫び」を読んで


照る日曇る日第454

佐藤良明の懇切丁寧な翻訳と注解に導かれて、今回はかろうじて最後まで読みおせたが、いったいこれは何なんだ。

熟れた人妻がサンフランシスコの黄昏をダシール・ハメットの探偵小説の主人公のようにさまよい始めるが、その彷徨はセリーヌの夜の果ての旅路よりも謎めいて不可解だ。

かつて淡く付き合っただけの大物実業家がヒロインに委託しようとした膨大な南加の土地、株、切手コレクション……。その莫大な遺産は、とうとうアメリカ合衆国全体へとふくれあがる。

他方では12世紀以来北イタリアに居住していたタッソ家が16世紀にブリュッセルで開始した郵便事業が次第に欧州全域に拡大し、フランスでの事業完遂を達成するためにかの仏蘭西大革命まで引き起こした!そうなんだが、野心的な一族はアメリカ大陸へも進出しようとして、ここ桑港一帯で数多くの国家権力と人民大衆を巻き込んだ一大陰謀が繰り広げられるのであるんであるんであるう……。

どうだ、驚いたか! この奇妙奇天烈荒唐無稽の阿呆馬鹿小説の野放図さに!

しかしこの古今東西にわたる複雑怪奇な世界を、形而上学的超高層から非形而上学的最深部に至るまで小さな大脳前頭葉一個で大精査想像創造し、ちびたトンボ鉛筆ただ一本で書きに書き殴るピンチョンの旺盛な作家根性には脱帽の他ない。

介護とは終わりなき自己犠牲らし秋海棠 蝶人

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