闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.147
上田秋成の原作をこの映画のために自在に企画・脚色した辻久一、川口松太郎、依田義賢、そして夢か現か幻かという映画世界を見事に具現化した美術、照明、撮影、音楽スタッフ、最後にヒロイン京マチ子の妖艶な美しさが光る邦画の名作です。
もちろん監督や森雅之、田中絹代、小沢栄太郎、水戸光子などの役者連中も健闘していますが、この映画では私たちが戦国時代の武士や貴人のたしなみとして認知している日本的な優雅幽玄風情なるものは、外国人にはことさら魅力的な世界として映じているので、かくべつ彼らが出演していなくともヴェネツィアでは賞が獲れたことでしょう。
しかもこの映画が描こうとしているのが、ほんとうの幸福は遠い世界の富や名誉ではなく手を伸ばせば届く厩の麦の温かさにある、とする古今東西に普遍するメーテルリンクの所謂ひとつの「青い鳥」の主題であったがために、全世界の共感を呼んだのでありませう。
それにしても京マチ子のエロスの濃厚なこと! このようなにょしょうに日夜挑まれ、組み敷かれてついに身を滅ぼしてしまうことこそおのこの甲斐性ではないか、と溝口は主張しているのです。
ミチアンナイに案内されて登る坂 蝶人
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