Friday, September 16, 2011

夏の死


バガテルop143♪音楽千夜一夜 218

行き合いの空には入道雲、九月よ永遠に続けとばかりここを先途と泣き叫ぶ油、ミンミン、つくつく法師、そして夜はぽっかりお月さまと、なかなか秋になりそうでならないこの季節が好きである。これで仕事にありつければもっといいのであるが。

この絶好のチャンスを利用して私が取り組んでいるのが、CDの風入れである。半日天日で干したそれらを一枚一枚特製の溶液をひたした特製の繊維布で拭きとり、経年変化で消耗した盤面の塵や埃や汚れを丁寧に取り除いているのだが、驚いたことにはそのうちのかなりの部分が損傷を受け再生不可能になっていた。

例えばカール・ベーム指揮のモーツアルトのオペラの大半やリヒテル、ホロビッツなど私の愛聴してやまない名盤およそ五〇枚が全滅してしまったのである。二枚のCDの間に挿入されていたウレタン製のうすい薄茶色のソフトカバーがボロボロに腐食し、その繊維素が盤面深く喰い入って無数の穴を開けてしまったのである。

ほんらいはCDの保護をすべきものが、その逆の役割を果たし、商品価値を台なしにしてしまうとは! 悲しみのあまり呆然と立ち尽くす私の脳裏に浮かんだのは油蝉の大合唱に伴われた滝廉太郎の遺作「憾」の調べであった。

やっこらせカールベームが振り起こすゆらゆら揺れるフィガロの序曲よ 蝶人

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