♪音楽千夜一夜第60回
02年9月のバレンボイム指揮ベルリン国立ライブで「コシ・ファントゥッテ」を視聴する。
近年モーツアルトのコシはますます上演機会が増え、さまざまな演奏と演出が登場してわれわれを楽しませてくれるようになった。それはこのダポンテ・オペラの最後の作品がすばらしいアリアと女と男という現代的なテーマでわれわれの心をとらえるからに違いない。
かりそめの恋愛に絶対はなく、その恋愛の対象は時間と環境を変換すればたちどころに置き換え可能であり、その定かならざる不定性こそが男女の関係性の本質そのものであることを、この音楽と心理の天才はよく知っていた。どんな男女の間でも恋愛は可能であり、また不可能であることを歌うこのオペラの音楽の魅力は不滅であろう。
いまや押しも押されぬ大家となったバレンボイムは、手兵のベルリン国立歌劇場管弦楽団をよく掌中におさめ、そんなモーツアルトの名曲をいとしむように、楽しみながら振っている。それは彼が目指しているフルトヴェングラーの演奏とは対極にあるものだが、それなりに身をゆだねて聴くことができる。カテリーナ・カンマーローアー、ドロテア・レシュマンなどの歌唱もおおきな破綻はなく、手なれたアンサンブルが予定調和的に醸し出されるが、時代を60年代の終わりに設定したリス・テリエの演出はシャープな切れ味をみせた。
♪春三月わたしの園を荒らすのは誰だ 茫洋
No comments:
Post a Comment