Friday, March 13, 2009

吉田秀和著「永遠の故郷 薄明」を読んで

照る日曇る日第242回

冒頭に懐かしいヴィクトル・ユゴーの詩が掲げてあって、そこからこのフランス語とドイツ語と日本語が入り混じった多声的な語りに加えて、随所に手書きの楽譜が自在に挿入され、もはや小林秀雄の入眠落語を超越した吉田翁独自の音楽と文学と人生のたわむれが緩やかにはじまる。

Limmense bonte tommbait du firmament.(アクセント符号・記号等を省く)

「測り知れぬほど大きな優しさが大空から降りてきた。」(吉田秀和訳)

そういえばユゴーには、私の好きなこんな言葉もある。

「海よりも広いのは空である。空よりも広いのは、人の心である。」

新しい音は昨日の思い出を、昨日の思い出は明日の人生を、そして今日の人生がまた若き日の記憶の底へと古池の落葉のように沈んでいく。

語り部は、はたしてまだ生きているのか、それとも、もう死んでしまったのか、冥界からの子守歌のような無限旋律は、われらの心を限りなく慰藉するのである。


土佐文旦ずしりわが失いしもの程の重さかな 茫洋
青池さんより頂戴せし土佐文旦残り3個となる惜しみて食べられず

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