Tuesday, June 05, 2007

レイモンド・カーヴァー著・村上春樹訳「大聖堂」を読む

降っても照っても第22回


アルコール依存症を辛うじて脱し、好伴侶テス・ギャラガーを得て創作に勤しむカーヴァーが書き上げた短編小説の傑作の森が本作である。

いずれもいわゆる珠玉のような完成度を誇るが村上氏が評価しているように「ささやかだけど、役に立つこと」「ぼくが電話をかけている場所」「大聖堂」の出来栄えは見事である。
「大聖堂」は妻の友人である盲人に対してはじめは冷淡だった主人公が手に手を取って大聖堂の絵を描きあげるなかで障碍者の実体を文字通り体験する感動の物語だが、導入部の冷淡さと結末の高揚の対比が少しあざといのが瑕瑾といえば瑕瑾か。

「ささやかだけど、役に立つこと」においても、最後のパン屋の告白が唐突に過ぎるように感じられる。

それに比べると「ぼくが電話をかけている場所」はJPの語りが素晴らしい。

この語りの中で私は「荒野の呼び声」のジャック・ロンドンがこの小説の舞台となった療養所に近い谷間の土地でアル中で窮死したことを知った。

どうもアル中はアル中を呼ぶらしい。

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