Sunday, June 24, 2007

ある丹波の老人の話(34)

弟はメジロ捕りが上手でメジロを売って儲けた十幾銭かの金を、後生大事にこのとき京都に持っていったもんでした。

でもこの大切なお金を含めても私は家を出るとき少しばかりの旅費しかもらわなんだので一文の無駄遣いをしたわけでもないのに、このとき財布には十二銭しかありまへんでした。

これでは昼飯をくうたら今夜の泊まり銭がなくなるので、昼抜きのままとうとう園部に辿り着いて来る時にも泊まったかいち屋という宿屋に泊まりました。

しゃあけんど十二銭ではまともな泊まり方はできまへん。

「私は胃病やから晩御飯は食べへん」というてすぐに床に入って寝ました。

しかし裏を流れている川の瀬音が昼飯も晩飯も食べないすきっ腹にひびいて、なかなか寝付かれませんでした。私はその夜の情けなさはいまも忘れることができません。

朝は宿屋がおかゆをつくって梅干を添えて出してくれました。

私はそれを残らず食べて宿銭一〇銭を払うとあとは二銭しかありません。旅館が新しいわらじを出してくれたのを、「そこまで出ると下駄を預けてあるから」と断ってはだしで出て、みちみち落ちわらじを拾ってそれをはいては歩き続けたんでした。

「第6話弟の更正 第2回」

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