Monday, June 25, 2007

ある丹波の老人の話(35)

「第6話弟の更正 第3回」

昼ごろになると朝のお粥腹がペコペコに減ってきたので、いろいろ考えた挙句寂しい村のある百姓家に入り、「昼飯を食べ損なって困っているからなにか食べさせてください」と頼むと、米粒の見えないような大麦飯にタクワン漬けを添えて出してくれました。

私はそれを食べ、最後の二銭をお礼において一文無しになって晩方に川合の大原に着きました。大原には貧しからぬ父の生家がありました。

そこで出してもらったお節句の菱餅を囲炉裏で焼く間ももどかしくまるで狐憑きのように貪り食らいそのまま炉辺で寝込んでしまいました。

弟はこの縮緬問屋へ三、四年くらいいたと思います。「アメリカへ行きたい」というて英語の独習などをやっていたがついに主家に暇をもらい神戸に行って奉公し、渡米の機会を狙っていたらしいのです。

それから朝鮮の仁川へ行ったのは神戸から密航を企てて発見され、仁川に降ろされたとかいうことでした。仁川では日本人の店につとめてなかなか重用されておったようです。

弟はそれから徴兵検査で内地に帰り、福知山の20連隊に入営しました。

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