Wednesday, August 17, 2011

ダグラス・サーク監督の「悲しみは空の彼方に」を観て


闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.140

昔からラナ・ターナーという女優が好きだった。その派手の容姿の奥に隠された定めなき不安、動揺、いわく言い難い負の要素が気になって仕方がない。

事実彼女はゲーブル、タワー、シナトラ、コネリー、ヒューズなどの男優や実業家のみならずマフィアのギャングとも浮名を流し、本作公開の前年の1958年には、SMとDBの日々を過ごしていたそのギャングを娘が刺殺してハリウッドを驚倒させたように、終生汚辱とスキャンダルにまみれた女優生活を送った。

ダグラス・サークが演出したこの映画で彼女は夫の死後娘を育てながらニューヨーク演劇界のスターを目指すろうたけた熟女を演じるが、それがさながら実生活の葛藤を肥しにしたように壺にはまり、最後まで眼を離せないメロドラマの傑作となった。

映画の冒頭1940年代のコニーアイランドの海岸でヒロイン母子は偶然後の彼女の人生に決定的な影響を与えるカメラマンと黒人母子に出会う。住み込みとなった黒人女性の娘は外見が白人と変わらなかったので自分の出生を隠して偽りの人生(原題はIMITATION OF LIFE)を歩もうとするのだが、ラストではその模倣的人世の虚妄を悟る。

しかしそういう人種問題をうんぬんするよりも、ヒロインが芝居の名声と真正の恋のはざまに立って苦悩し、自分の恋人を娘も愛していたことを知って衝撃を受けつつ、それらの矛盾をハリウッド的に解決しないままにこの映画を現在進行という形で終わらせたところがダグラス・サークの素晴らしい知恵だった。黒人女性の盛大な葬儀で熱唱するマヘリア・ジャクソンの歌声も感動的である。

なお、現在原美術館で開催されているシンガポールの美術家ミン・ウオンの作品「LIFEOFIMITATION 」は、この映画にインスパイアされた作品である。

失われた領土を取り返すために君はもう一度戦争をしますか 蝶人

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