Tuesday, August 02, 2011

リュック・ベッソン監督の「グラン・ブルー」を見て


闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.136

海の表層は青く美しいが、しばらく下降すると暗黒の闇に閉ざされる。さうしてその闇の奥には我々の生誕の原点があり、ここにこそ人類創成700万年の秘密が隠されている、とジャック・マイヨールやエンゾ・マイオルカ、そして監督のリュック・ベッソンがかんがえたのかどうかはいざ知らね、ラストでは子をなしたばかりの可愛い子ちゃんロザンナ・アークエットが差し伸べる手を振り切って、あろうことか深海の奥で差し招くイルカちゃんと踊るために命綱から手を離してしまう主人公の胸の中の思いは、素潜りするくらいなら海岸で美女を見物するほうを選んでしまうわたしなどがいくら想像を逞しくしても思いも及ばぬ不可解な心的領域である。

おそらく彼らフリーダーバーたちは生まれながらに陸地よりも海が、人間より魚が好きな連中であり、潜れば潜るほど人類史の逆に向かって退行することに生理的必然性を感得し、ついには己が鰓のない脊椎動物であることを忘れて地表の生よりも海中の生、すなわち快楽死を選ぶのだろう。

168分のフランス版ハリウッド映画自体の出来栄えは最悪で、リュック・ベッソンの演出は例によって凡庸であり、とりわけエリック・セラの音楽などは聴くに堪えない拙劣さであるが、かくも人世の理非曲直をわきまえぬ変態的貴種の生態を描いた「主題の特異性」において、独特の存在意義が認められるだろう。

むざむざと車に轢かれしキリギリス 蝶人

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