Tuesday, August 09, 2011

成瀬巳喜男監督の「浮雲」を観て


闇にまぎれてbowyow cine-archives vol.137

原作は林芙美子、脚本は水木洋子、そして男と女の好いた惚れたのファーストキスから、ズブズブドロドロの腐れ縁、そして因果は巡る大団円までを、これでもかこれでもかと執拗に描く監督。

そして、その理想的な被写体としての演技をほぼ完璧に演じる高峰秀子と森雅之。そこにヒロインの処女を暴力で奪った山形勲とヒロインの恋敵岡田茉莉子が顔を出す。しかも音楽は小津の常連斎藤一郎とくれば、いわゆるひとつの成瀬ワールドはこれで完成したようなもの。

ド壺にはまって悪あがく2人が、ある時は男が、またある時は女が優勢に見えるのが切なく身につまされるが私はこの映画を最後までみてもどうして2人が別れられなかったのか判然としなかったのだが、成瀬の解釈では2人の性的な相性が抜群だったということで、さもありなん。そういう描写もインサートしてくれれば、もっと凄絶な恋物語となったろう。

1年360日雨が降る屋久島で悲劇が起こった時、男は喪ってはじめて表中の掌中の珠の有り難さを知るのだが、どうせ泣くならフェリーニの「道」のザンパノのようにもっと号泣して欲しかった。

うら若い乙女からろうたけた人妻姿まで、高峰秀子は透き通るような美しさであり、森雅之のようなすがれた色男は、げんざいのわが芸能界にただひとりも存在しないことが如実に分かる映画でもある。

つばくらの低く飛ぶ駅を出でにけり 蝶人

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