照る日曇る日第448回
講談社刊の「天皇の歴史」も、いつのまにやら第6巻の江戸時代までやって来た。
本巻の冒頭では家康・秀忠・家光と続く徳川幕府が、後陽成・後水尾、明正、御光明天皇の実権をはく奪しながらも、形骸化されたその権威を徹底的に活用しておのがヘゲモニーを貫徹するありさまをリアルに描いているが、その後段においては、幕末の政争にからんだ孝明天皇が尊王攘夷派の公家や武家に担ぎあげられながらその不遇と屈辱を跳ね返し、大政奉還という形でお互いの立場を入れ替えるというジエットコースターの上下動さながらの劇的展開をつぶさに追っている。
その原因は彼らの力関係の変容というよりは外夷(欧州米国ロシア中国などの諸外国)からの政治的軍事的経済的圧力に求められるとしても、幕府に対して天皇の優位を誇示した霊元・光格天皇の勇気ある反抗、宝暦事件で処罰された竹内式部の垂加神道、桃園天皇への「日本書紀」進講、幕府への謀反の罪で死罪に処せられた明和事件の山県大弐などの思想的実践的営為の蓄積が、幕末の尊王攘夷運動の大爆発を呼び込んだことも、本書を読めば頷けよう。
江戸時代の天皇の使命は天下泰平、海内静謐、朝廷再興、宝祚長久、子孫繁栄、所願円満を願って祈祷し、朝から晩までもっぱら学問にはげむことだったそうだが、今も昔も天皇は現人神として宮中奥深い秘所でわれら国民には公開されない神事を行っているらしい。この国が神の国であることを止めて普通の国になるためには、一日も早くこういう特定の宗教に偏向した儀式の執行を停止することが必要だろう。
この頃は来なくなりぬわが義母を余命一週間と断言せし医師 蝶人
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